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私の出会った恐るべし賃借人たち〜砂の女編〜

賃貸マンションの管理の仕事を長くやっていると、何年かに一度の確率でハッと驚くような賃借人に出会うことがあります。

もう数年前の話ですが、横浜市の磯子区にある総戸数100戸くらいの1ルームマンションで私は彼女に出会いました。

この1ルームマンションの管理を私の勤める会社が受託したとき、既に彼女は入居していたのですが、私が担当になって半年くらいたったある日、彼女から会社に電話が掛かってきました。

キッチンの流しとお風呂の排水が詰まったので大至急対処して欲しいというのです。

詳しく事情を聞きたかったのですが、このままだと生活できないのでとにかく早く何とかしろとまくし立てるので、詰まりの原因が入居者にある場合は、修理に掛かった費用をお支払い頂きますとだけ伝えて協力業者を手配しました。



数時間後、現地で対応した協力業者より排水詰まりの原因の報告を受けた私は、想像もしていなかった原因に、思わず「洗濯パンの排水管に砂?」と聞き返していました。

洗濯パンとは洗濯機を置くための排水口の付いた受け台のことです。

「入居者さん猫を飼ってますね。トイレ用の砂を洗濯パンの排水口から大量に流したんだと思います」

「猫? ペットは禁止なんだけどな」

「そうなんですか。でもこの入居者さん完全に飼ってますよ。実際猫も部屋にいましたし、トイレも部屋に置いてありましたから」

キッチンの流しとお風呂の排水が詰まったのは、それらの排水管が床下で洗濯パンの排水管と繋がっているためで、詰まった砂を除去するとすべての詰まりは解消されました。



彼女に連絡を入れる前に、私は契約時の資料から彼女の情報を前もって調べました。

彼女は40歳で、生活保護を受けていました。入居当時の写真は茶髪で、田舎のヤンキーっぽい化粧をしていました。

念のため入金担当に確認すると、家賃は役所から直接支払われる仕組みになっていて滞納履歴はありませんでした。

彼女は不機嫌そうな声で電話に出ました。

「○○さん、さっきまで部屋で作業していた業者から聞いたと思うんですけど、排水詰まりの原因は洗濯パンの排水管に砂が詰まっていたからなんですね」

「へえ、そうなんだ」

「そうなんだって、〇〇さんが自分で砂を流したんでしょう?」

「知らないわよそんなこと」

私が驚いたのは、電話口の彼女がペットを飼っていることもトイレの砂を排水管に流したことも平然と否定したことでした。

猫はたまたま友人から預かっていただけで、トイレの砂を排水管に流した事実はないというのです。

ここまで明らかな物的証拠があるのに、まったく悪びれる様子もなく何も知らないと言い通す彼女の神経が理解できませんでした。

「じゃあ一体誰が洗濯機の排水管に砂を流したんですか? ○○さんしか住んでない部屋で○○さんが知らないなんてことあり得ないでしょう!」

「知らないもんは知らないんだからしょうがないでしょ! 誰がやったのかあたしが知りたいくらいだよ。あんたあたしが生活保護受けてるからってバカにしてない?」

彼女は排水詰まりに掛かった修理代金の支払いを明確に拒否した上で、感情的に私を非難した後、かつて自分がどれ程優雅な生活を送っていたのかということを語り始めました。

彼女は20代の頃は六本木に住んでいて、自宅のマンションまで毎日黒服の運転手に送り迎えされるような生活を送っていたのだそうです。

当時彼女は六本木の高級クラブでホステスをしており、指名が途切れないほどモテたのだそうです。彼女は元Jリーガーの名前を出して、しつこく口説かれたが相手にしなかったのだと笑いました。

私が排水詰まりと関係のない彼女の話を遮れないでいると、彼女は急に「もう疲れた」と言って一方的に電話を切りました。

私は彼女の個性にショックを受けて、握った受話器をしばらく戻せなかったのを覚えています。




結局彼女は修理代金を支払いませんでした。もちろん簡単に諦めたわけではありません。

あるとき電話じゃ埒があかないと思って直接彼女の部屋を訪問したことがあったのですが、それでも彼女は責任を認めませんでした。

訪問時、ドアを開けた彼女が猫を抱いていたので、「やっぱり飼ってるじゃないですか!」と問い質したのですが、彼女は平然と「今日も預かってるだけよ」と答えるのでした。

後に私は彼女を「砂の女」と名付けました。情けない話、あだ名を付けることで彼女に一矢報いたかったのかも知れません。砂の女、恐るべし。

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