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120年ぶりの民法改正でマンションオーナーが備えるべきこと#3

2020年4月1日に施行される改正民法について、賃貸借契約の貸主である物件オーナーに及ぼす影響について考えます。

今回は「敷金の定義」及び「原状回復義務範囲」の明文化についてです。

「敷金の定義」についてはこれまで民法上明確でなかったのですが、改正民法により「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」と明文化されました。

何だかややこしいですが、要するに敷金は「家賃等の担保」ですということです。

また敷金の返還時期については「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と明文化される予定です。これらについては従来の実務通りの内容が明文化される形となります。

「原状回復義務範囲」についても、賃借人には、通常の使用による損耗や経年劣化に対する修繕費用の負担義務がない、という従来の判例法理が次の通り明文化されます。

「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下同じ)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない」。

「敷金の定義」及び「原状回復義務範囲」の明文化については、従来通りの考え方を明文化したに過ぎないので、実務上の影響は大きくないと考えます。

但し、「原状回復義務範囲」については明文化されることにより、これまで以上に意識する賃借人が増えるでしょうから、無用なトラブルを避けるために、原状回復工事の特約については明確に賃貸借契約書に明記する必要があるでしょう。

原状回復工事の特約についてはクリーニング特約が一般的ですが、クリーニング費用が月額賃料を下回る場合(多くの契約がこれに当て嵌まると思います)は、敷金償却(敷引き)を定めることをお勧めします。

例えばクリーニング費用35,000円を敷金80,000円(月額賃料1ヶ月分)より差し引いて45,000円を返還するよりも、敷金80,000円全額を償却した方が、より多く原状回復工事の財源を確保できます。

最高裁判所(最高裁平成23年3月24日判決)は、敷引金の額が高額に過ぎるものである場合には、賃料が相場に比して大幅に低額であるなどの事情がない限り、敷引きの特約が無効になるとしており、この点は民法改正後も特に変更されるわけではありません。

  


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