不動産投資コラム > リスクを冒さない賃貸借契約書
マンションオーナー(貸主)の中で、賃貸借契約書の中身を慎重に精査される方はそう多くないと思います。
少なくとも私が仕事でお付き合いしているオーナーの中にはいません。
こちらで用意した賃貸借契約書に黙って印鑑を押されるだけで、その内容について質問される方というのはまずいません。
見方を変えると、それだけ信用されているということなので、ありがたいことではあるのですが。
あるいは賃貸借契約書の条文なんてどれも大して変わらないと思っているのかも知れません(笑)。
賃貸借契約書の中身は非常に大事です。
単に賃貸借を行う上での約束事を定めるだけでなく、トラブルや訴訟になった際の担保にもなるからです。
重要事項説明書や東京ルールと比べても、契約当事者双方(貸主と借主)の署名押印の入った賃貸借契約書の方が遥かに大事です。※私の勤務先の顧問弁護士談。
例えばこれは私が仕事で実際に経験したことですが、退去に伴う敷金返金に掛かる振込手数料をどちらが負担するかで揉めました。
それまで私の勤める会社では、敷金返金に掛かる振込手数料は借主に負担してもらっていました。
借主負担である旨を記載した解約届にサインをもらうことで了解を取っていたのです。
ところがある借主が「それはおかしい、認められない」と意義を唱えてきました。
その借主は民法の条文を抜粋したメールを送ってきました。
当事者がその残余敷金の返還のための費用の負担者を定めなかった場合には、その負担者は一義的には債務者である貸主が負担することになる(民法第485条本文)。
よって賃貸借契約書に特別の定めのない本契約において、借主たる自分が振込手数料を負担することは出来ないという趣旨のメールでした。
確かにそれまで社内で使用していた賃貸借契約書には敷金返金に伴う振込手数料を借主負担とする旨の記載はありませんでした。
結局このケースでは、貸主にお願いをして振込手数料を負担してもらうことで決着しました。
何だたかだか何百円かの話じゃないかと思われるかも知れませんが、私が問題にしたいのは金額ではなく、このように賃貸借契約書には突っ込みどころが多いということです。
例えば家賃の滞納を担保するため借主に保証会社に加入してもらったとします。
ところが賃貸借契約期間中にその保証会社が倒産しました。
家賃滞納の担保がなくなった貸主は、借主に対して新たな保証会社に加入するよう管理会社を通じて依頼しましたが、拒否されました。
保証会社が倒産したのは自分(借主)のせいじゃないから知らないというのです。なるほどそりゃごもっともです。
さてこのケース、「保証会社が倒産した場合、借主が自己負担で新たな保証会社に加入しなければ賃貸借契約は継続しないものとする」等の条文が賃貸借契約書に明記されてないと、これ以上手の打ちようがありません。
費用は貸主が持つから何とか別の保証会社に加入して欲しいとお願いしても、結構ですと断られればそれまでです。貸主にとって大切な家賃滞納の担保がなくなります。
もう何年も前の話ですが、当時家賃保証会社の最大手で東証マザーズに上場していたリプラスが倒産し、その対応で大変な思いをしました。
まあ私は仕事だから別にいいのですが、そのせいで家賃保証が受けられず、滞納した賃借人の明け渡し訴訟で100万円くらい出費したオーナーが実際にいました。
上場企業だし安心してオーナーにも勧めていたので、まさかと思いましたが、そのまさかに備え、想定されるリスクを担保する条文を賃貸借契約書に明記すべきです。
私が言うのもなんですが、賃貸借契約書の中身を仲介業者、管理会社任せにしていてはダメです。
内容の甘い契約書でも契約書は契約書なので、何か問題が起きても作成した業者に責任転嫁は出来ません。
最終的にその責任の全部が賃貸借契約書に署名押印したオーナーに降り掛かってきます。
問題なんて滅多に起きないでしょ! なんて思わないで、署名押印する前に契約書の内容に不足がないかチェックするようにしましょう!
賃貸借契約書に明記すべき内容については本サイトで紹介していますので、ぜひ参考にして下さい。